新着研究情報

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12/07/01 第37回研究助成研究

「短期間内白血球亜群の量的調節に関する足浴、全身浴の比較」
                 石川天然薬効物質研究センター 山口 宣夫

■介護を要する高齢者や障害を持つ方にも温泉を楽しんでもらうために
著者の先行研究では、「短期間の全身浴(温泉)が自律神経系や免疫系に良い影響をもたらす」との報告がなされている。
標記研究は、全身浴では負担がかかる高齢者や障害を持つ方にも楽しんでもらうために、「全身浴」、「足浴」の効果を比較検討することを目的に実施された。
測定された項目は、
(1)白血球数、血中カテコルアミン3分画(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)
(2)白血球のβ2受容体および細胞表面抗原
その結果、全身浴には及ばないものの、足浴においても入浴後に
(1)白血球総数および白血球亜群数が適正に調整される
(2)アドレナリンが減少する
(3)β2受容体発現細胞数の変化率がβ2+CD56+細胞で正の相関を示すことが明らかになった。
こうした知見は、全身浴だけでなく、足浴においても自律神経系や免疫系に良い影響がもたらされる可能性を示唆するものであり、また、全身浴が困難な要介護者や高齢者、障害を持つ方にも、温泉や入浴を足浴で楽しむことで、健康の維持増進に役立てられることも示された。

第37回研究助成研究
蒸気を伴う高温サウナ浴が動脈硬化度指標に及ぼす影響
                              香川大学 吉岡  哲

■適切な入浴方法を探って
著者の先行研究では、「一過性の入浴が心血管イベントの危険因子である動脈スティフネスを改善する」との報告がなされている。
標記研究は、「蒸気を伴う高温サウナ浴(アウフグース)が、動脈スティフネスを改善する」との仮説を検証する
ことを目的に実施されたものである。
動脈スティフネス(心血管イベントの独立した危険因子)の指標には、上腕-足首間脈波、電波速度(baPWV)が用いられた。baPWVの低下は動脈スティフネスの改善を意味する。
行われた検討は3つ。
(1)若年男性のアウフグース前後のbaPWVと体温の変化を検討
(2)アウフグース習慣の有無とbaPWVの関係を検討
(3)高齢女性を対象に、アウフグース習慣の有無とアウフグース前後のbaPWV及び体温の関係を検討
その結果、
(1)若年男性では、アウフグース後の体温は上昇するがbaPWVは変化しない
(2)アウフグース習慣によるbaPWVに差はない
(3)アウフグース習慣のある高齢女性において、アウフグース後に体温上昇とbaPWV低下
傾向があることが明らかになった。
こうした知見は、アウフグース習慣が熱刺激に対する感受性及び反応を亢進させる可能性を示唆するものであり、また、アウフグースやサウナ浴などを習慣的に実施していない高齢者は、実施時間及び実施温度などにも注意を払う必要があることが指摘された。

第37回研究助成研究
温泉を用いた運動浴の生活の質(QOL)に与える影響
                           鹿児島大学 松元秀次

■リハビリテーション場面でのQOL(生活の質)向上を
標記研究は、「温泉を用いた運動浴」をリハビリテーション領域で実施することで、患者や障害者のQOLに好ましい効果を有することの検証である。
リハビリテーションプログラムに運動浴をとり入れた患者55名を対象に、入院後の運動浴をとり入れるまでの期間と、運動浴をおこなった期間のQOLが、SF-36(QOL評価尺度)を用いて比較された。
温泉を用いた運動浴は、水温38℃の単純硫化水素泉で、回廊式運動浴槽を用いたもの。
医師・理学療法士の指導のもとに、患者の状況に応じて週2回、30~60分実施。手足の前後左右への運動、膝関節の屈伸、スピードを変えた歩行訓練等で構成されている。
その結果、運動浴をおこなった期間で、(1)身体機能、(2)日常役割機能(身体)、(3)体の痛み、(4)全体的健康感、(5)活力、(6)社会生活機能、(7)日常役割機能(精神)、(8)心の健康の項目で改善が大きい傾向が示された。
個々の適応を考える必要はあるが、リハビリテーション領域において温泉を用いた運動浴を積極的に取り入れることで、QOL向上につながることが期待される。

第37回研究助成研究
デルフィー・コンセンサス法を用いた温泉介入における
チェックリストの開発:SPACチェックリスト
                         東京農業大学 上岡洋晴

■温泉を活用した研究を効果的に実施するために
標記研究は、通所型(日帰り)での温泉入浴を主とする介入研究を実施するにあたり、研究論文で必要となる項目を網羅するチェックリストの開発を目指して実施されたもの。
開発には、疫学研究者、研究方法論(EBM)研究者、臨床研究者、医学ジャーナリスト、健康運動指導士の合計8人が携わり、3ラウンドのデルフィー・コンセンサス法による検討会が行われ、その結果、最終チェックリストには施設の特性、ケア・プロバイダーの情報等19項目が抽出された。
チェックリストは今後、研究実施予定者や評価者、レビュアーなどに役立つツールとなることが期待される。

第37回研究助成優秀研究
温泉利用プログラム型健康増進施設を利用した生活習慣改善のための
温泉・栄養・運動プログラムに関する研究
                        日本体育大学 阿部貴弘

■温泉を楽しみながら生活習慣の改善を
標記研究は、舞浜ユーラシア(温泉利用プログラム型健康増進施設)において、3か月間の「温泉・栄養・運動」を組み合わせたプログラムを実施したもので、参加者の継続的な生活習慣の改善を目指して行われた。
本プログラムでは「温泉を楽しむ」要素を加味することで、参加者全員がプログラムを終了し、一定の身体面・心理面での改善が認められた。
研究助成発表会ではこうした成果が、「健康増進施設を活用した健康づくりの普及に寄与する」と高く評価され、優秀研究に選出されました。

第37回研究助成最優秀研究
温熱効果のテロメアDNA老化性変化への影響の解析
                  九州大学病院別府病院 前田豊樹

■温熱のアンチエイジング効果実証に寄与
標記研究は、慢性疼痛に対する鉱泥浴の治療効果を検証されたもので、主観的な疼痛軽減効果、臨床血液検査の変化に加え、抗老化効果の評価を目的に、末梢血白血球テロメアの解析が行われている。
#テロメアDNAは、細胞分裂を多く経た老細胞では短くなり、老化の指標として知られている。
研究成果として、鉱泥浴の疼痛緩和効果、栄養状態や貧血の改善が示唆され、加えて、新たな知見としてこうした変化とテロメア長の間の相関関係が示され、仮説として鉱泥浴の内臓臓器への影響や細胞長寿効果が提示された。

研究助成発表会では、こうした成果が、「温熱のアンチエイジング効果の実証に寄与する」と高く評価され、平成23年度第37回研究助成の最優秀研究に選出された。